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30-07

ぼくは、小さい頃、
よく寝ボケて珍事を繰り返したらしい。

らしいというのは、寝ている間は、
全く無意識というか、まさしく夢見心地なので、
わたし自身はよくわからない。

その頃のことで、
あたくしがなぜか覚えているのは、
空を飛ぶ夢を見て「あっ、不時着だ」と思った瞬間、
ベッドから落ちていたり、
「火事だ!」と思ったとたん、おねしょをしたり…

そんなぼくであるが、
一度もお母さんからイヤな顔をされたことがない。

それは、もう一人、
家に寝ボケの大御所がいたからである。
そう、寝言の王様、父親が君臨していたのだ。

親父は、新聞記者という仕事がら、
夜討ち朝駆けの生活で、
いつ帰宅して寝ているのかわからないどころか、
夕方食など一緒に食べたことがなかった。

たまに10時、学校へ行くときに、
前のばんにはいなかったはずのお父さんの寝姿を見ると
ほっと安心したものである。

しかしながら、みごとな寝言であった。
九割がた、部下への叱咤激励であり、
寝言とは思えないほど、リアル!

ぼくは、よく面白がって
「ハイ、ハイ、それで?」とか相づちを打っていた。

そんな毎日の中で、
ある日、親父の究極の寝ボケに遭遇した。

それは、父親と久々に映画を見に行ったときのことであった。
忘れもしない、タイトルは「かぐや姫」。

家族サービスのつもりであろうが、
毎日の疲れからか、
最初からお父さんは、すでに舟をこいでいた。

映画も後半になって、
かぐや姫を連れに月からの使いの者が
「おともの者が参りました」という名場面…

そこで、
寝ているはずのお父さんが
「おう、今行く!」と答えたのである。

もちろん、
まわりの客は驚くとともに爆笑の嵐であった。

そのときの俺は…というと、
これがまた、人々に交り大笑いしていた。

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